みんなで創る度会県!度会県民参加型プロジェクト
読んで応援!みんなで考えよう!連載コラム
第5回【特別編】どうか、輪の中に、私たちも加わらせてください。
これからの地域との関わり方について想像するきっかけとなるコラムの連載第5回をお届けします。
これまで東京大学の 「フィールドスタディ型政策協働プログラム」 をきっかけに度会県民になった東大生たちに寄稿してもらってきましたが、その 「フィールドスタディ型政策協働プログラム」って何?と疑問に思われた方もいらっしゃるかもしれません。
今回は、特別編として、本プログラムで度会県を担当した先生からいただいたコラムをお届けします。
「フィールドスタディ型政策協働プログラム」とは、社会的課題に果敢にチャレンジするリーダー人材を育成するために東京大学が取り組んでいるプログラムです。
2017年度にスタートしてから、度会県では学生たちを毎年受け入れています。(2020年は新型コロナウイルス感染症の感染拡大の影響により中止となっています。)
https://www.u-tokyo.ac.jp/ja/students/special-activities/h002.html
受入地域にはそれぞれ担当教員が付くのですが、2017年度には、東京大学社会科学研究所の宇野 重規(うの しげき)教授が度会県を担当されました。
※宇野教授のプロフィール(東京大学社会科学研究所ウェブサイト)
https://jww.iss.u-tokyo.ac.jp/mystaff/uno.html
今回のコラムは、本プログラムを始めたねらいや度会県を訪れたときの思い出などについて宇野教授に寄稿していただきました。
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東京大学社会科学研究所の宇野重規と申します。ふだんは政治学を教えているのですが、今回はなぜ、東京大学が三重県の南部地域(度会県!)と関わりを持つに至ったのか、そのお話をさせていただきます。
2017年の春、東京大学ではフィールドスタディ型政策協働プログラムを始めました(名前が長いので、以後は、Field Studyの頭文字を使ってFS事業と呼びます)。この事業は、東京大学として、日本の各地域とより密接な関わりを持つことはできないか、という問題意識からスタートしました。それぞれの大学には、「地元」があります。ところが、東京大学の場合、これという「地元」がありません(東京都でしょうか?)。
もちろん、東京大学には10の学部があり、それ以外にも私がいるような研究所やセンターもあります。学部学生と大学院生を合わせると27,000人、教職員も8,000人近くいるので、実際にはそれぞれの教育・研究活動で、日本の多様な地域と関わりを持っています。ところが、学部学生と大学院生の多くは、とくに地域とのつながりや、そこでの体験がないままに卒業・修了していきます。これは残念だということで、FS事業がはじまったのです。
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東京大学の学部学生・大学院生を、日本の各地域に一年単位で受け入れていただき、住民の皆さんとともに、地域の課題解決に関わることはできないか。その際に、東京大学の有する研究・教育上の知見を活かすことで、少しでも地域に貢献することはできないか。そんなことを考えてのスタートでした。
とはいえ、いったいどの地域が、東京大学の学生や院生を受け入れてくださるだろうか。最初の模索はそこからはじまりました。幸いなことに10の県が手をあげて下さり、その一つが三重県の南部地域(度会県)でした。学生・院生も50名ほど応募してくれ、そのうちの4名が度会県を担当することになりました。
県庁の皆さんとご相談の上、学生たちは、尾鷲市九鬼町に滞在させていただくことになりました。学生たちは度会県とはこれまでご縁のなかったメンバーばかりですが、それぞれに意欲を持って参加してくれました。ただし、専門は文系もいれば、理系もいて、専門も学年もバラバラです。はたして地域に溶け込んで活動できるのか、少しでも地域に貢献することができるのか、心配はつきませんでした。
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最初に尾鷲市、そして九鬼町にうかがった日のことを昨日のように思い出します。自分自身、尾鷲に行くのは初めてでした。郷里が日本海側なのですが、海の色が違います。そして何より、度会県は森の国でした。熊野古道の森の大きさ、緑の濃さに圧倒されました。幸いなことに、県庁の皆さんはもちろん、尾鷲市役所の方、地域おこし協力隊のOB・OGを含む素敵な皆さん、株式会社熊野古道おわせの方、そして何より九鬼町の皆さん、本当に多くの方から全面的なサポートをいただきました。緊張していた学生たちが少しずつリラックスする様子を見て、少し安心しました。
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地元の方と一緒に
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そこからの学生たち一人ひとりの奮闘努力、地域の皆さんとの感動の出会いなどについては、このホームページでも紹介があるかもしれません。私が一言付け加えたいのは、最終報告会の様子です。古民家を生かした素敵な建物が会場でした。学生たちは拙いながら、一生懸命報告をしてくれました。地域の皆さんも、これに対し温かい言葉をかけてくださいました。何より、一人ひとりの学生が成長し、それぞれに地域の皆さんと親しい関係を作っていることがわかり、本当にうれしく思いました。
もちろん、正直言って、いくら頑張ってくれたとはいえ、それまで地域との関わりがほとんどなかった学生たちの報告や提案が、すぐに地域に役立つとは思えません。むしろ、地域の皆さんが学生たちを育ててくださったのが、この事業の成果のほとんどかもしれません。それでも、素朴だけれど熱意ある学生たちが地域に入り込むことで、少しでも「新たな風」が吹いたことを心から願っています。
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最終報告会で発表する学生たち
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このFS事業と度会県との関係は今でも続いています(残念ながら、私個人が度会県を担当させていただいたのは、この年限りでしたが)。今年はコロナ禍によって一時事業を中止せざるをえなくなりましたが、これからも多くの学生がこの海と森の国にうかがいます。東京大学としても全力でサポートします。どうか、地域の課題解決に向けての輪の中に、私たちも加わらせてください。今後とも、どうかよろしくお願いいたします。
宇野教授、ありがとうございました。
FS事業によって多くの東大生に入り込んでもらったことで、度会県のあちこちに「新たな風」が吹き始めています。
また、学生たちも卒業後に再び地域を訪問するなど、第二の故郷のように今もつながりを持ち続けてくれています。
このようなご縁を作るきっかけを提供していただいた宇野教授と東京大学の皆さんにこの場を借りて改めてお礼申し上げます。