度会県民参加型プロジェクト

<南伊勢町>伝えたくなる南伊勢・魅力発掘プロジェクト/11月17,18日開催

漁師ライターがナビゲート「伝えたくなる南伊勢・魅力発掘プロジェクト」(後編)

——いのちの物語。

目を閉じ、川のせせらぎに耳を澄ませてください。
森の空気で大きく深呼吸をして、目を開けてください。
この星では、晴れの日もあれば雨の日もあります。
雨が降り山の養分を含んだ水は野に流れ、海に流れ着きます。
そして水蒸気となり雲になります。
雲はまた雨を降らせるのです。
この星にはバスタブのように栓がないので、いきなり水が減ることはなく循環しています。
その循環の間で、水はさまざまな命を育み、わたしたちは生きています。
また人間は自然から生まれ、自然とともに生きてきたのです。

あらためまして、水の惑星「地球」へようこそ。

もし地球外に住む宇宙人の友人がいたら、私はそのように地球を説明したい。
説明する場所は、ここがいいだろう。
きっと地球旅行にきた宇宙人の友人も、深く納得するに違いない。
ちなみに私には、宇宙人の友人はいないのでご安心いただきたい。

やってきたのは三重県度会郡南伊勢町。
人口約12,800人(2015年)で、地形はリアス式の海岸が続き、沿岸部は伊勢志摩国立公園に含まれ、海と山の原風景が美しい町には38の集落がある。
今回は「伝えたくなる南伊勢 魅力発掘プロジェクト」を1泊2日の取材で追った。

プロジェクトを立ち上げたのは都市部に生まれ育ち、一年前に早稲田大学を卒業後、南伊勢に移住して漁師となった伊澤峻希さん(以下、峻希さん・詳細は前編参照)。峻希さんは南伊勢町の地域おこし協力隊として町の魅力を情報発信する仕事も行っている。

峻希さん:東京から南伊勢にきて、食べ物って物語があるんだなって。それを知って欲しくて。

そんな峻希さんの元に、県内外から7名の参加者と2名のゲストが訪れた。

<参加者>

杏侑子さん(社会人/三重県亀山市)

 

秀士さん(社会人/京都府京都市)

 

遥加さん(大学生/京都府京都市)

 

太貴さん(大学生/兵庫県姫路市)

 

怜奈さん(大学生/京都府京都市)

 

真宗さん(大学生/三重県伊勢市)

 

礼佳さん(大学生/岡山県岡山市)

 

<ゲスト>

井村氏(プロカメラマン/三重県伊勢市)

 

福田氏(ライター/三重県桑名市)

参加者は学生や社会人。田舎やエコ、近年叫ばれている持続可能な社会に興味のある人が多い印象だ。
一日目は38ある集落のうち、峻希さんが3つの集落をナビゲートしてその魅力を体験。二日目はもう1つの集落でワークショップを行い、その魅力をあらためて考えるというプログラムだ。
まずは南伊勢の山里である押渕エリアへ向かった。

 

 

——いのちの源。

押渕で100年以上続く糀屋(こうじや)、庄下糀屋の5代目庄下真史さん(以下、真史さん)を訪ねた。真史さんは東京の大学で醸造を学び、約10年前に家業に入った。

真史さん:糀がないと酒も味噌も醤油もできません。それは日本の味です。かっこよく言ったらいかんけど、伝統を守っとるというか。今回は食べることに関心を持ってもらえたらと思います。

真史さんが作っている仕込み中の1ヶ月の味噌と、製品となる1年醗酵させた味噌を食べ比べ。
続いて、育てた餅米で作ったつきたての餅をいただいた。

太貴さん:めっちゃ伸びるー!旨いです。

レストランで食欲をそそられるどんなキャッチコピーも、生産者と一緒に生産地で食するのにはかなわない。
続いて近くにある不動の滝へ。
どうやらそこに、今回のプロジェクトの鍵があるらしい。

  

山道を小川沿いに数十分歩くと、不動の滝に到着。

太貴さん:うわ、すげー!空気が違う。

真史さん:滝で手を洗っといで。

ここで真史さんが育てたお米で作ったおにぎり、南伊勢産のあおさ入り味噌汁、他にも南伊勢産のたまご焼きなどが入ったお弁当が配られた。

遥加さん:うわー、食べる前からもう美味しい。

おにぎりを頬張ると米の甘味、あおさの風味が鼻を抜ける味噌汁。

礼佳さん:あおさのお味噌汁、とても美味しいです。

きっと毎日の食事では、あまりおかわりすることはないであろう味噌汁。
しかし今日の味噌汁は、みんながおかわり。

滝や小川のせせらぎ、木々の揺れる葉音を聞きながら食べるお弁当は格別だ。

峻希さん:水ってめっちゃ大事なんですよ。ここに初めて来たとき、山の豊富な養分が入った水が米を育て、海に流れて魚を育てるのを実感しました。

私:それを知って、何か変わったことはありますか?

峻希さん:上手く言葉にできないけど、安心感があるんです。

人も自然から生まれた生き物。
生き物として必要な自然界の水の意味を知ったとき、峻希さんという生き物が安心感を覚えるのは理にかなっている。
食事を終え、下山中に真史さんが教えてくれた。

真史さん:シダにもいろいろ種類があるんです。子どものときにこういった自然環境で育ったので、例えば棒切れ一つでもそれは遊び道具になりました。

山村や漁村に暮らす。または都市部に暮らす。
人にもそれぞれ生き方の種類がある。

▲郵便配達人に手を振る真史さんの息子さん。

真史さんは自分も子どもの時に体験したように、息子さんと夏には家の前の川で遊ぶという。
そして息子さんが「じいちゃんが獲ってきた物」を案内して見せてくれた。

じいちゃんが獲ってきた、鹿の頭蓋骨・・。
自然いっぱいの地域で育つ息子さんは、きっと真史さんのようにたくましく育つのだろう。

 

 

——いのちが終わるとき。

川沿いに車を走らせ、向かったのは内瀬エリアにある五ヶ所湾。

名前の通り、五カ所の集落にあるそれぞれの川が流れ着く湾だ。

峻希さん:海の水と川の水が交わる汽水域でここのあおさは育ちます。海と山の養分が交わり、美味しいあおさになります。

堂々と参加者に説明する峻希さん。
一年前までシティーボーイだった彼の顔はすっかり日焼けし、すでに南伊勢の人間になっていた。
次は峻希さんのホームでもある阿曽浦に向かい、漁業体験。

出迎えてくれたのは峻希さんの勤める水産会社、友栄水産の代表であり漁師でもある橋本純さん(以下、純さん)。
早速、2隻に分かれて出港。

初めて漁船に乗る参加者も多く、若い参加者たちはキャッキャとはしゃいでいた。

まずは養殖の伊勢真鯛に餌やり体験。

魚を触った感触。
それは生き物だ。

続いて、ツボ網漁を体験。

私が撮影していた隣の船からは、

「超いのち!めっちゃ命!めっちゃ魚!」
と参加者の声が聞こえてきた。

太貴さん:あーゴメンゴメン。ゴメンナサイ・・。

手が滑り、掴んだ鯛を甲板に落としてしまった太貴くんはそういった。
そう、魚は生きている。
飛びはねもするし、実際に生で見るとヒレの鋭さや目の輝きに驚く。
はしゃぎながら漁業体験をする若者をみて、私は少し心配になった。

実はこの後、若者たちは自らの手で魚を締めなければならない。
つまり、自分の手で魚の命を終わらせなければならない。

締めることは、魚にストレスをあたえず、血を全身に回らせずに命を終わらせ、食べ物として美味しく頂くためにも大切なことだ。
港に帰り、いざ締めの作業。
まずは杏侑子さんから。

ぐっと力を入れなければ、魚は死なない。

杏侑子さん:ゴメンねと思いました。そして、美味しくいただかなくてはと。

続いて遥加さん。

遥加さん:逝ったんだって。命が終わる瞬間を感じました。もう殺生できない。こんなこと知らずに生きてたんだって。命を大事にしようと思いました。

生き物が食べ物に変わるとき、人は今まで生き物を食べて生きていたことを実感する。
そして美味しくいただくことが、一番の供養なのだと即座に悟る。
いただきますとは、命をいただきますのこと。

 

 

——いのちを作る人。

今晩の食事は純さんが営むゲストハウスまるきんまるで、先程捕った魚などでBBQ。

やはり楽しい食事の前は、ワクワクする。

カンパーイ!

鯛の塩釜焼きやお刺身など、豪華な夕食で楽しい夜となった。

秀士さん:うわー!なんなんこれ、めっちゃうまい。やばい!

あちらこちらから「ヤバイ!」が連発。
命がどうやって育まれているのか、そして自分で締めた新鮮な魚の味。
そんな目を輝かせて食べる参加者に、純さんはいった。

純さん:僕らは命を作りだしている。

そんな名言とお酒に酔いしれながら、楽しい夜は更けていった。

 

 

——いのちの繋がり。

翌日は河内エリアにある、わかくさ園でワークショップ。

元保育園だったわかくさ園は、地元の若者が引き継ぎリノベーション。
日曜日はカフェとしてオープンしている。
大きなイチョウの木がシンボル。

隣接している広場では、グランドゴルフを行うおじいさんやおばあさん。

▲日曜にカフェを開いている南さん兄弟

こんなのどかな場所に、とてもスタイリッシュなお店があることに驚く。

ワークショップは三重のローカルWEBメディアOTONAMIEの記者で、プロカメラマンの井村氏を講師に迎え、OTONAMIE副代表の福田氏がファシリテーター。

▲Photo:井村氏

▲Photo:井村氏

まずは講師の井村氏が、昨日に同行して撮影した写真の構図や狙い所を解説。
続いて参加者それぞれがこの二日間で撮った写真に、五七五の川柳を考えて発表し、それの解説を行った。

 


太貴さん

そこに来る
命を灯す
ウバメガシ

<解説>
昨夜のBBQの写真。
南伊勢ではリアス海岸に自生するウバメガシがあり、備長炭になる。
良質な備長炭として重宝され、南伊勢には日本一の備長炭職人もいて、映画化もされる。
この土地に来たからこそ、知れた大切なことや出会えた景色や人などを綴った一句。

井村氏:いきなり力作ですね。被写体が何か成果物でなく、燃える炭というのがいいですね。

 


秀士さん

みなみいせ
苔のむす頃
うつくしい

<解説>
写真の背景に映っている、グランドゴルフをするおじいさん達。
その中にここの保育園で育ち、子どもの頃ここを走り回った人もいるのでは。
そんな時間の流れを君が代にでてくる苔に例えた。
また、現地で育った人の美しさのようなものを今回感じた。

 


遥加さん

はじまって
重なり合って
最後はひとつに

<解説>
撮影した瀧の写真をみてハッとした。
水、川、海、命、職人、生産者。
一つになるの見ちゃった感じ。
そして一つになっていくのがわかった。
だから「超いのち、めっちゃ命」となるくらい感動した。

 


真宗さん

絶景よ
南伊勢の
原風景

<解説>
祖父が南伊勢の漁師だった。
自身は伊勢に住み、伊勢の大学に通っている。
車で南伊勢までは1時間くらい。
今回参加して、あらためて南伊勢の自然の原風景がすごくいいと思った。
そして他の参加者も南伊勢がいいといってくれて、なんだか自身の祖父が誉められている気がして嬉しかった。

 


怜奈さん

血の香り
海の暗さに
鯛光る

<解説>
漁業体験で魚の血が流れ続けているのを見て、死を間近に感じた。
私が出血したときと同じなんだと思った。
当たり前だけど、スーパーの魚は切っても血がでない。
そして暗い海の底で、青く光る真鯛が印象的だった。

 


杏侑子さん

恵みの和
笑顔をつむぐ
いきなみえ

<解説>
漁業体験をしたときに話した漁師さんみたいな人が沢山の魚を捕ったり、庄下糀屋さんみたいな職人さんが伝統を守っているから、私たちは毎日食べることができるという繋がりを感じた。
食べることで繋がって、みんなが太い和になって、生き方を変えることになるのかも知れない。
そんな繋がりを作る三重は粋だとも感じた。
南伊勢は確かに交通面では不便かも知れないが、ある物で幸せを共有している。
かっこいい生き方をしている。
そんな三重に行きなよ!と薦めたくなる。
「いきなみえ」は三重の粋、三重へ行く、三重の生き方が掛かっている言葉。

 


 

参加者それぞれに南伊勢の魅力を感じたことは、もう書くまでもないだろう。

関係人口という言葉ができて、数年が経った。
今もその定義や可能性などを、会議室で悶々と議論していることも多い。
私事で恐縮だが、そのような会議に参加させていただくこともある。
しかし結局、現地に行かなくては地域の魅力は分からない。
論理や事例では、語りきれない魅力の方が多いのだ。
そして机上の空論を振りかざすより、笑顔で地域に行ってその地の魅力を感じた方が楽しい。
百聞は一見にしかずだ。
「いきなみえ」と参加者が表現したように。

最後に井村氏から、人はなぜシャッターを切るのかの話が印象的だった。

井村氏:シャッターを切るってことは、心が動いているってことなんです。理由はその瞬間にはわからなくても。つまり、無意識に心のシャッターを切っているんですね。

私たちの右手の人差し指は、常に心のシャッターを切ろうと待ち構えている。
日本の原風景が残る南伊勢で自然を感じたり、生産地でおいしい食事を食べたりするだけでも、あなたの心はシャッターを切るのかもしれない。

自然の循環は、地球上にある一滴の水をも無駄にしない。
そんな自然の循環の中で、みんな繋がっているのだ。
山も海もあなたも、そしてあなたが食べるご馳走も。

もしあなたに宇宙人の友人がいたら、ぜひ南伊勢で地球の魅力について教えてあげて欲しい。
いや、なにも宇宙人じゃなくても、ぜひとも友人や知人とともに南伊勢の魅力を体験して欲しい。
誰だって、きっと美味しい魚に舌鼓を打ちたいはずだから。