度会県民参加型プロジェクト

<尾鷲市>九鬼かいぞく学校プロジェクト/8月25,26日開催

観光客以上、移住者未満。 漁村に東大生が来る仕組み「九鬼かいぞく学校」(後編)

2018年8月25日〜26日、台風一過の暑い夏の日に「九鬼かいぞく学校」が開催された。(九鬼かいぞく学校については前編参照)

一泊二日、東大生など5名と地元高校生2名のメンバーが、文字通り「汗をかいた」二日間だった。
猛暑のなか、漁村を歩きまくり、考えまくり、地元の人と触れあいまくり、体と頭と心でメンバーはたくさんの汗をかいていた。

システム化された都市部に暮らす東大生と、暮らしの真ん中に海という自然がある漁村という組み合わせで何が生まれるのか、私はワクワクしながら密着取材をした。
「僕、九鬼にきてから将来がわからなくなったんです」
一日目に取材が終わった夜、とある東大生と飲んでいて、彼が放った言葉が今でも深く印象に残っている。
そんな濃いめの「九鬼かいぞく学校」のレポートをお伝えしたい。

 

 

—地方創生ネイティブ世代

九鬼かいぞく学校は初の開催だが、昨年、東京大学主催のフィールドスタディ型政策協働プログラムで4名の東大生が九鬼に2週間ほど滞在していた。
そのうちの3名と新たに2名、そして地元高校生の2名が今回の参加メンバー。

▲左から智貴君(東大・初)、理子さん(東大OB)、航君(東大院)、勝夫君(東大院・初)、幹太君(高校生・初)、文吾君(東大)。

九鬼かいぞく学校は、学生が自ら取り組むフィールドスタディプログラムであり、事前に何に取り組むのかを決めないというユニークな仕組み。

▲食堂・喫茶 網干場(あばば・以下、網干場)。

▲ごはんをおかわりする学生たち。

網干場で昼食を済ませ、今回初参加のメンバーもいたので、まずは九鬼を歩きまわり、今回のフィールドスタディで何に取り組むのかを決める。

▲漁村独特の趣のある細い路地

▲今は使われていない九鬼小学校

▲今回は特別に校舎に入れていただいた

▲昔は多くの小学生が通っていた

▲この展示物以外にも、漁業に関する展示物が沢山あった。

▲九鬼をはじめ東紀州地域はブリの産地。

▲1、3年生は同じ教室。2年生の小学生はいなかった。

▲最近オープンした古本屋トンガ坂文庫

▲九鬼に暮らす人から寄贈された本や、絵本などがセレクトされ売られている。

▲多くの大学生が本を購入。

▲お城のように立派な眞巌寺の石段や壁

▲今回の開催を現地でサポートする、九鬼に暮らす豊田宙也さん(写真右)。

▲お寺の境内から九鬼の町や海や山が見渡せる。

漁村独特の狭い路地、休校になった九鬼小学校、トンガ坂文庫、眞巌寺など、2時間程歩いて巡り再び網干場へ。

▲昨年から九鬼に通っている文吾君(写真中央)。すっかりお店の人や常連さんとも仲が良い。

▲尾鷲銘菓「虎巻き」

▲あんこがギッシリ。

▲運が良いとおまけでもらえる、虎巻きの皮。ウィスキーに浸すと絶品だという声も。

「おかえりー」と店の人に迎えられ、差し入れされた尾鷲銘菓「虎巻き」で一休み。
実は幹太君の母方のご実家が、九鬼で虎巻きを作っている老舗菓子屋なのだとか。

次に今回、何に取り組むのかを決めるべく、まずはブレインストーミング(ブレスト)。
ウィットに富んだアイデアが、次々と。

理子さん:これをまとめて、二日間でカタチにします。

昨年、九鬼に何度か足を運んだ理子さんは、今年東大を卒業して社会人一年目。今回のリーダー的存在だ。
ブレストそしてKJ法に近いやり方で、アイデアを取りまとめ。
九鬼小学校系、情報発信系、観光系、清掃系、ゆるキャラ系、魚系とカテゴライズされ、いざメンバーのやりたいのは「せーの!」

九鬼小学校系と情報発信系、あと魚系が候補に。

日頃からTシャツにこだわりのあるという航君は、魚拓Tシャツを考案。
しかし、台風一過ということで、しばらく漁はなく市場に魚がいない。

ならば、釣ればいい。と、店前の海にエサなしの釣り竿を仕掛ける。

そして釣れた、鰯・・。

そんなことをしながらも、メンバーの柔軟な会議は徐々にカタチになっていく。

▲情報発信チーム

▲九鬼小学校チーム

1時間半くらいの会議で「九鬼小学校チーム・情報発信チーム」が編成され、おおよその方向性をメンバー間で共有。
「まずは楽しくできそうなことをブレストして、その後実現の可能性を考えよう」
「ターゲットは町外なの?町内なの?」
「関係人口をつくるには、いま九鬼にあるどこを活かせばいいのかな」
「九鬼小学校の想い出を共有したいね」
和気あいあいとやっているようだが、要点を突いていたのはさすが東大生だと感じた。
先ほども書いたが今回は大学のカリキュラムとかではなく、メンバーは自分の意思で自費で参加している。
では、なぜそこまでして、昨年そして今回も参加したのかを、Tシャツにこだわる航君に聞いた。

▲この日のTシャツは、スタンフォード大学T。

航君:地域に興味があるんです。日本の将来に興味があるから。

なるほど。彼らは、地方創生ネイティブ世代なのかも知れない。

 

 

—メンタルやられてるときに

  

夕食は網干場の人や地元の人と一緒に楽しいBBQタイム。

学生:この肉、焼けてますか?何か生っぽくて・・。
地元のおじさん:生はあかんぞ!生は!

学生:お肉焼けました。いりますか?
地元のおじさん:君ね、うろうろ立ち歩いとらんと、座って肉を食べなさい!

学生:あ、お肉がないです。
地元のおじさん:座ってそんなこと言っとらんと、クーラーボックスから肉を持ってきて焼きなさい!まったく、東大生にはまだまだ教育が必要や。

と、あちらこちらから漫才さながらの会話が・・。
これぞ地域を肌で知る、関係人口の正しい作り方!?
今回の主催者でもある、豊田さんにお話しを伺った。
ちなみに彼は東大院を辞め、地域おこし協力隊として九鬼に移住し、協力隊の任期終了後もここに暮らしている。(詳細は前編参照)

▲豊田さん(写真左)、木島さん(写真中央)。

豊田さん:ああいう「愛のあるせっかちに触れる」ことは、とても良いと思います。僕も移住した当初、あんな感じでした。

豊田さんと同じく協力隊として東京から移住した木島さんに、学生たちがここで得られることを聞いた。

木島さん:九鬼に縁もゆかりもなかった東京の若者が、まさに今みたいに地元の人と食をともにして、年齢層も違う人とも触れ合って。そういうの、都市部だとなかなか経験できないじゃないですか。こういう体験があって社会にでるのとそうでないので、後々大きな違いがでるんじゃない、と思います。

楽しいBBQも終盤。
輪からそっと抜け、ひとりで飲んでいた文吾君に将来について話を聞いてみた。
彼は昨年から大学のカリキュラムだけでなく、プライベートでも九鬼にきている。

文吾君:僕、九鬼に来てから将来がわからなくなったんです。こーやって、生きてる人がいるんだーって。今まですごく閉鎖的な生き方をしていて。だって学校以外は関係のない生活だから。大学行くのに親にお金かけてもらって、就職そして将来いくら稼げるのか決まる時期。九鬼から東京に戻ってメンタルやられてる時があって。そしたら九鬼の人から電話が掛かってきてほっとしたり。自分がまだ若いっていうタイミングでここにこれて、いっぱい大切なことを教えてもらったから、九鬼にお返しがしたいっていう想いがあります。

地元の人との触れ合いは、学生にとってきっと生涯忘れられない想い出になるのだと思う。
そして想い出という言葉の「想い」は、体のどこかに記憶され、ゆっくりと心に染み込んでいく。
そんな想いは社会の荒波に揉まれても洗い流されることはないし、想い出は何かにつまずいたときにそっと寄り添ってくれたりもする。

 

 

—距離感が近いのが好きっていうか

二日目は午前中から二班に分かれてフィールドスタディ。

▲日よけはiPad・・。

▲地元の人からも情報を聞き出す学生たち。

情報発信チーム三名(理子さん、勝夫君、智貴君)と、九鬼小学校チーム四名(文吾君、航君、幹太君、二日目から参加の九鬼在住高校生の萌美さん)は九鬼の町に再び出て行った。
情報発信チームは三名がそれぞれに分かれて、九鬼のディープなSNS映えする魅力スポットを2時間かけて探し歩く。
私はその中の一人である、智貴君に同行することにした。

スタートした九木神社からあちこちに立ち止まり、スマホで写真をとる智貴君。

木々の間から海が見える雰囲気のある道を歩き、岬神社に到着。

智貴君:すみません・・。僕、あんまり面白いこととか言えないので・・、すみません。

取材に同行し、彼との会話を頻繁にメモしていた私を気遣ってくれたのか、そんな言葉をくれた。

スタートから1時間くらい歩き、九鬼小学校に到着。小学校には鍵が掛かっていて中には入れなかった。二日目も猛暑日で、疲れた私はベンチに座って休憩していた。

智貴君:小学校でインスタ映え、何か探してきますね!

彼は校庭の隅々を歩き、時々不思議なものを眺めるようにシャッターを切っていた。
何を撮っていたのか聞いてみた。

智貴君:校舎の外から中を見るって、あまりないので新鮮で。この魚のシールとか、あっちのカーテンのシミが何か鹿っぽいなって。

それは地域を見る視点の発想に似ている。
地域にはよそ者視点が必要だといわれる。地域内の人には当たり前過ぎて目にとめない魅力に、よそ者が気がつく場合が多い。
町を歩きながら、智貴君に趣味を聞いてみた。

智貴君:ラジオをよく聞きます。深夜ラジオとか。ラジオって送ったメールが読まれたり、お笑い芸人とリスナーの距離が近かったりしていいんです。youtubeとかは、テレビの延長のような気がして。ラジオはテレビじゃのっけらんない話とかもするんで。

いちいち彼の話を深読みしてしまうのは、私だけだろうか。
例えば距離の近さ。私は九鬼だけでなくいろんな漁村に行くことが多いが、大抵そこでは人と人の距離が近く温かい印象がある。私はその距離感が好きだ。

そして、都市部に暮らす智貴君はラジオの距離感が好きだという。
最近の若者は、なんて言い出したらいよいよ自分も本格的におやじ世代に入った証拠だが、最近の若者は閉鎖的だといわれている。
でも、本当にそうなのだろうか。

取材開始から口数や笑顔が増え、生き生きとしている智貴君を見ていると、閉鎖的にさせているのはこちら世代が、そして現代社会がそうさせている気がしてならなかった。
ちなみに普段はあまり朝食を食べないという智貴君だが、九鬼二日目の朝食はご飯を3杯半食べたのだとか。

智貴君:卵焼きが最高にうまかったんですよ!

次回は九鬼が誇るブリを、お腹一杯に堪能してもらいたい。

 

 

—足で稼ぎ、頭を絞り、人を想いながら。

▲二日目から参加した、九鬼在住の高校生、萌美さん(写真:右)。

昼食を終え、それぞれのチームは成果物の作成に入った。
情報発信チームはまちあるきマップを、九鬼小学校チームは展示物を作っていた。

私はまちあるきチームを取材していたのだが、メンバーは当たり前のようにチームで撮影した写真をSNS上で共有して、パソコンでマップを仕上げていく。限られた時間内で話し合い、編集作業に入るとあっという間にマップは作成されていった。

最後に全員で成果物の発表と質疑応答、あと感想などを話し合った。
まずは、情報発信チームのまちあるきマップから。

まちあるきマップは網干場に食事にきたお客さんなどに、もう一歩踏み込んだ九鬼の魅力を知ってもらうために設置したいとのこと。
つまり、すでに町外から人が集まる場所から、関係人口を作っていこうという試みだ。
確かに九鬼のまちあるきマップは見たことがないし、知らない漁村は巡りにくい。
実際に網干場で食事をしたお客さんから「どこか巡る場所はありますか?」と質問されることも多いとのこと。
まだ知らない魅力が詰まった漁村という新しいニーズ。
時間が限られていたので紙面デザインは荒削りではあるが、メンバーはわずか2日でそのニーズに気がつき、立案し、成果物をつくった。
このスピード感もすごいのだが、私が印象的だったのは、彼ら彼女らが仮説を立てて、今まで具現化しづらかった事を魅力に変換していく力だ。

理子さん:撮影した場所を見付けてもらう方が、よくない?

勝夫君:あえてマップに撮影スポットの住所を書かないから、いいんだよね。

 

つまり、撮影したスポットを目指して九鬼の迷路のような魅力的な町を探し歩いてもらい、自分達が経験したように、探し歩く道中の美しい石畳みや漁村独特の景観など、いろんな魅力を発見してもらうのが狙いだという。
そしてスポットを見付けたときと、スマホのナビアプリを使ってたどり着いたときとは別の感動があるとも思った。
続いて、九鬼小学校チームの発表。

九鬼小学校に通っていたメンバーの萌美さんが、小学校に在籍していたときのイベントの写真などを、萌美さんや他のメンバーがコメントを残し、それを九鬼コミュニティセンターに展示するという提案。また九鬼といえばブリが有名で小学校で使われていたブリのオブジェや、気になった被り物も展示する。
成果物の発表は、高校生の幹太くんが担当。

幹太君:九鬼小学校の卒業生の人に想い出してもらいたくて、そして今の状況を知って欲しかった。

これは町内または町出身の人向けの展示物となるが、狙いは鋭いと感じた。
考えてみれば、九鬼に住んでいる人の多くは九鬼小学校の卒業生だ。休校になった母校に入る機会はほとんどなく、その想い出は校舎のなかで眠っていた。
校舎から想い出をそっと起こすようにして、外の世界に連れ出し、卒業生に見てもらうことで、大人になった卒業生はきっと何かを感じるだろう。
それは何なのか・・。

それは、愛郷の念だろうか。
故郷を想う気持ちとは不思議なもので、歳を重ねる毎に強くなる。故郷から距離が離れれば離れるほど、それは強くなるのではないだろうか。
そう考えると、展示物を見るために帰省する人がいるかも知れない。
そう、関係人口だ。
最後に、地元九鬼に暮らす萌美さんにとって、ブリとはどんな存在か聞いてみた。

萌美さん:昔からたくさんブリが獲れるので、ブリ=九鬼というイメージがあります。

豊田さん:食べるのは好き?
萌美さん:お魚は・・・、あまり好きではありません。
豊田さん:この先、進学や就職で例えば県外で暮らすことになったとき、スーパーで売ってるブリが九鬼産だったら、やっぱり嬉しい?
萌美さん:九鬼だったら嬉しいです。食べないけど・・。
一同(笑)

次回も参加したいと言っていたメンバーのみんな。今回彼ら彼女らが残した種から、どんな花が咲くのかが楽しみでならない。
そしてこの先、メンバーのみんなが、ふと九鬼が気になったとき、ふわっと帰れる場所がここにあり、迎えてくれる人がここにはいる。
関係人口という言葉は少し分かりにくいけど、簡単にいうとそういうことなのかなと思いながら帰路についた。

 

 

—おまけの話

本稿を書きながら撮影した写真を整理していた。
智貴くんと二人で町を歩いていたときに、彼が道に迷い、そのおかげで見つけることができた、私なりのSNS映えする?一枚。

▲恵比寿さんの瓦。背景には九鬼小学校と海。

 

迷いのない人生などない。
そして想いを持たない人などいない。

 

ときに迷ったら、悩んだら・・。
猛暑のなか、漁村の細く急な坂道を上ったり下ったりして、魅力を発見するために迷いながら一緒に歩いたことを想い出して欲しい。

そう、私たちはどこに暮らしていても、同じ時代を生きていることに違いないのだから。