度会県民参加型プロジェクト

<尾鷲市>九鬼かいぞく学校プロジェクト/8月25,26日開催

観光客以上、移住者未満。 漁村に東大生が来る仕組み「九鬼かいぞく学校」(前編)

—大学院を辞め、漁村に移住。

人口約440人の漁村、三重県尾鷲市九鬼町。

 


▲尾鷲市九鬼町

 

そこに東京大学の大学院を辞めて5年前に移住した若者が、町の人たちと食堂を営んでいる。

 


▲豊田宙也(とよだちゅうや)さん。

 

豊田さん:大学院で哲学を専攻していて「許す」を研究していたんです。哲学的に「許す」を定義できても、自分がそれを体験していないなと感じてしまって・・、本当の意味で論文に書けないなと。だから自分がそれを経験するために、何かやるしかないと思い、大学院を辞めました。

 

大学院を辞めた豊田さんは、長野県松本市にあるバー、エスニック料理、ライブ、映像や映画上映、トークイベントなどを行う多目的スペース「Give me little more.」を訪ねた。そこはスナックだった場所を改修して作られたスペース。刺激を感じたと豊田さんはいう。

 

 

豊田さん:長野に来ないか、とも誘われていたのですが、三重県亀山市に祖父がいて、移住するなら三重がいいなと思っていました。

 

そんな折、豊田さんは日本仕事百貨(生きるように働く人の仕事探しサイト http://shigoto100.com )にて、飲食店が1件もなくなってしまった九鬼町で、10年以上前に閉店した喫茶店を食堂に改修して運営する、地域おこし協力隊の求人記事を見付けた。

 

豊田さん:面白そうだなって、早速会いに行ったんです。そしたら担当している人やその周りの人が面白くて。お酒もめちゃ吞むし(笑)。

 


▲あえて残したレトロな窓枠からは美しい海と山が一望できる。

 


▲みんなで貼ったカウンターのタイル

 

九鬼町への移住を決め、地元町内会にもお願いして協力してもらいながら、元喫茶店の改修は順調に進み、食堂をオープン。

 

 

名前は食堂・喫茶 網干場(あばば・以下、網干場)。

 


▲地元で捕れた魚を、地元の人がつくったお刺身定食で。

 

 

町内会のメンバーに、地元を何とかしたいという人が多く、そういった輪の中に入れたことがとてもよかったと、豊田さん。

 

—あなたの田舎はどこですか

現在、尾鷲市には18名の地域おこし協力隊(以下、協力隊)がいる。

すでに豊田さんを含め、数名の協力隊は任期を終えている。その中の一人で豊田さんと同じ九鬼町で暮らしている元協力隊の木島恵子さん。

 


▲木島恵子(きじまけいこ)さん。

 

彼女も東京からの移住者だ。しかし女性が一人で、東京という都市部から九鬼という漁村部への移住に、正直抵抗はなかったのだろうか。

 

木島さん:私、田舎がなかったんです。東京で生まれ育って、親戚も近所で。ほら、小学生の夏休みの絵日記で、田舎のおばあちゃんの家に行って、海に行ったとかあるじゃないですか。そういうのいいなーって。田舎がないことが、ずっとコンプレックスだったんです。

 

私事で恐縮だが、三重県に生まれ育った。いわゆる田舎だ。そして都市部に憧れ、進学、就職と都市部に出た。
そして、都市部に育った人にとって、その逆の田舎に憧れるという現象もあるのだと知った。

 


▲昔ながらの街並みが残る九鬼

 

木島さん:3年以上九鬼に住んでいますが、快適ですよ。この辺りには立派な古民家の空き家も多いですし。私も実際、そんな古民家に住んでいます。

 

田舎がないなら、つくればいい。
至ってシンプルなことなのだと感じた。

 

—田舎を観光地化する必要はあるのか。

豊田さんや木島さんは、他の協力隊や移住者また地元の人と、いろんなイベントや企画を行ってきた。

 

豊田さん:尾鷲はヒノキの産地でもあり、ヒノキの製材を東京の恵比寿に売りにいって販路開拓を手伝ったり、網干場で魚捌き会をやったり、魚の通販サイトの立ち上げを手伝ったり。みんなといろいろやりました。

 

そんな中でも、東京の超人気ネイルサロンのネイリストを網干場に呼んで、地元のお母ちゃんたちのネイルがキレイになると、町はどうなるのか、という検証イベントも手伝った、と豊田さん。とても楽しみながら暮らしているのが印象的だ。

 

そして食堂の噂は広がり、全国放送の人気テレビ番組で網干場が取り上げられた。テレビの効果はすさまじく、整理券を発行しなければいけない程の人が食堂に押し寄せた。ランチ目的で来たお客さんが、食事を口にするのが夕方だったことも。

 

 

豊田さん:もうてんやわんやで。今は落ち着いたのですが、そのときに学んだことがありました。それは田舎を観光地化する必要はあるのかなと。そして地元の人がみんな観光地になるのを望んではいない。

 


▲川上尚子(かわかみなおこ)さん。

 

川上尚子さん:あの時は忙しかったから、調理場から離れることができなくてね。お客さんの顔を見て仕事がしたいし、食事後のお客さんとのおしゃべりも楽しみなんです。

と語るのは、お店を手伝う元幼稚園の園長、川上尚子さん。

テレビ番組で中心的に取材を受けた、網干場で最高齢の川上徹さんは、

 


▲川上徹(かわかみとおる)さん。

 

川上徹さん:宙也君はね、とっても良い子。だから人が付いてくる。

 

 

豊田さん:いやいや、私にとって徹さんは精神的支柱です。話は戻りますが、そもそも、九鬼のような小さな漁村にそれだけの観光客の受け入れキャパもないし、何よりも地元の人が消耗してしまうのが嫌でした。

 

そんな豊田さんは、以前に九鬼町の町内会長も務めた。

 

木島さん:宙也君は「観光客以上、移住者未満」って、よく言ってるよね。

 

豊田さん:そうなんです。何も無理に観光地にする必要はないと思いました。ここに興味を持ってくれた人と話をしたりして、繋がったりするのがいいなと。

 

最近、地方創生において「関係人口」という言葉をよく耳にする。移住はハードルが高いが、地域と接点を持つことで、無理なく持続的に地域の発展等を行うことだ。まさに「関係人口の作り方」が九鬼にある。

 

 

それは、大学院で「やらなければわからない」と結論に至った若者がキャンパスを飛び出し、九鬼という漁村に移住して約5年間、多くの「許す」「許されなる」を体験した上で、肌で地域の可能性を見付けたのだ。

 

そして今、彼はもう一歩先の、地域の可能性を模索している。

 

—持続的に大学生が漁村にくる仕組み

昨年、東京大学主体の取り組みで、九鬼に4名の東大生が訪れ、フィールドスタディを行い地域課題を探り解決策の提案を行った。今年は大学ではなく、東大生が主体となり、新たな取り組みを行うことになった。

 

豊田さん:昨年のフィールドスタディの提案から生まれた、若者向けサマースクール案があります。地元の子どもだちと大学生の交流の場づくりです。そして大学生に「継続的に大学生が漁村に来るために、どうしからいいか」を考えてもらったんです。

 

試験的に大学主導ではなく、東大生に一度来てもらい、地元の高校生と一緒にフィールドスタディを行ったところ、

 

豊田さん:今は使われていない九鬼小学校の校舎があります。高校生の一人が、その小学校の最後の卒業生だったんです。「小学校は取り壊しを待つばかりなのかな」。そんな高校生の言葉が、大学生に響いたみたいです。九鬼小学校の「これまで」と「これから」をテーマに大学生が九鬼の町を歩き回ります。それが「九鬼かいぞく学校」です。

 


▲網干場の前にあるベンチ。釣り客がこの道沿いにいた。

 

東大生がわざわざ来る理由を考えるとBBQや釣りなどもいいが、それだけでは東京からだと伊豆半島の方が近い。わざわざ九鬼に来て、大学生が自ら廃校になった小学校のことを考えることは意義があり、廃校になった校舎の活用は、日本各地にある田舎の共通課題でもあると、私は深く納得した。

 


▲九鬼の漁村内を案内してくれる豊田さんと木島さん。

 

豊田さん:漁村に通えば、学ぶことがあります。来るだけで持って帰るものがある。それには、大学生が田舎に通う仕組みづくりが必要でそれが目的です。そして、漁村に大学生が定期的に通い、地元の子どもと交流するだけで、ある種の課題は解決しています。だから九鬼かいぞく学校の規模も、学生が無理なくできる小さい規模でいいんです。大学生が自主的に学び、楽しむために、九鬼かいぞく学校の内容をこちら側が決めるのは辞めようと、大学生とも話したんです。また、今回のフィールドスタディで出た高校生や大学生の意見も、地域の課題解決でもいいし、そうでなくてもいい。

 

 

予め敷かれたレールを走る電車に乗って移動するのと、自らレールを敷いて、その上に電車走らせて目的地まで移動してみるのでは、全く意味が違う。

 

仕組みを作るとは後者だ。電車は途中で止まるかも知れないし、その都度レールを治さなければいけないかも知れない。しかし目的地に到着したときの達成感は後者の方があるだろうし、前者より多くの学びを得てたどり着くはずだ。

 

また、仕組みを作った人は、別の場所でも試行錯誤しながら仕組みをつくることができる。

 

“子孫に美田を残さず”

 

明治という激動の時代を切り開いた、西郷隆盛の言葉が浮かんだ。そして今、地方創生時代。そんな未知の時代に、色々な人が地域と繋がる仕組みがもっともっと必要だ。しかし、地域ごとに環境、文化、産業は異なり、どこかの真似をして成功するほど話は簡単ではない。そう、自分達で考え、行動するしか道を開く方法はないのだ。それは学生であっても、規模は違えど原理は同じだ。

 

 

キャンパスを飛び出し、漁村で地元の人と一緒に食堂をつくり、自ら考えて行動し、関係人口で地域の未来を創る豊田さん。今度は漁村をキャンパスに見立て、学生と一緒に地域の未来を創ろうとしている。

 


 

九鬼かいぞく学校・夏

 

●日時: 平成30年8月25日(土)、26日(日)

●対象: 東京大学学生、大学生、九鬼町近隣の高校生

 

●スケジュール

【1日目】 午前10時頃〜午後5時頃 フィールドスタディ、アクティビティなど

【2日目】 午前9時頃〜午後(未定) フィールドスタディ、考察など

 

●募集: 大学生や高校生を若干名募集しています。詳しくはこちらから。(定員になり次第、受付を終了します。ご了承ください。)

●参加費: 実費(食費のみ)

●主催: 九鬼かいぞく学校実行委員会(080-1329-4483 豊田)

●後援 :九鬼町内会、尾鷲ヒト大学